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暴走細胞とガン

暴走細胞とガン

ガン

何が細胞の分裂アクセルを踏み、分裂ブレーキを壊しているのか?

ヒトの体は「60兆もの細胞が、何百もの異なる組織や臓器に分かれて働く一つの社会」と言えます。例えば、胃の粘膜上皮細胞は食物を消化し、神経細胞は情報を脳に伝え、免疫細胞は感染を防ぐため病原体と戦います。各々の細胞がどのように働くべきかは、遺伝子によって厳密に制御されています。

ガンはこの生命の設計図ともいうべき遺伝子に傷がついて、制御不能になった暴走細胞です。暴走細胞は「分裂を停止せよ」という命令を無視して増殖し続けま す。そして、本来の役割を果たせなくなり、そのうえ体の他の組織へ侵入して自分のなすべき仕事が何もない場所に「新たな砦」を築いてしまうのです。

死に至るほどの悪性のガンは、多くの遺伝子にさまざまな傷が蓄積された結果生じることがわかり、これまで何百もの「ガンにかかわる遺伝子」が発見されてい ます。ここでは、分子生物学におけるさまざまなガン研究の進歩を紹介し、その研究が診断や治療の改良にどう結びつくのか考えてみましょう。

1970年以降、ガンとの本格的な戦いが始まった

ガンは正常な細胞が反乱を起こしたものです。たった一つの細胞が、脈絡無く分裂できる能力を獲得し、「分裂を停止せよ」という命令を無視して増殖し続けた結果発生します。ガン細胞は無政府主義者です。本来の役割を果たせないどころか、周囲の正常細胞や組織までをも破壊していきます。臓器の機能や免疫といった細胞社会のシステムをことごとく破壊し、最後は個体を死に至らしめます。

ガンが細胞の反乱に例えられる一方で、ガンへの対応も戦争に見立てられてきました。放射線療法や化学療法といった従来からの治療法は、体全体を毒物にさらすことであり、戦争時に都市が丸ごと爆撃を受けて焼かれるのに似ています。特に、1970年代初めに当時のアメリカ大統領であったリチャード・ニクソンが 「ガン戦争(war on cancer)」を宣言してからは、ガンの治療に「戦い」という言葉がしばしば用いられています。その後、世界中の科学者たちが、ガンを分子レベルで解き明かそうと努力してきました。しかし、ガンは未だに最も多い死亡原因の一つです。先進国ではおよそ5人に1人が「ガン」で死亡しています。ニクソンの宣戦布告以降、30年もの年月と何十億ドルという資金をつぎ込んだにもかかわらず、人類はどうしてガン戦争に勝てないのでしょうか。

その答えは、ガン細胞が外部から侵入したものではなく自分自身のものだからです。暴れ狂うようになってはいますが、もともとは正常な細胞だったのです。感染症に有効な抗生物質は、細菌や微生物などの病原体を殺すことはできますが、もともと自分の細胞であるガン細胞を殺すことは不可能です。

免疫システムも「ガン」に対しては力を最大限に発揮できません。免疫細胞はガン細胞と正常細胞を容易には区別できないからです。放射線や化学療法はガン細胞を殺すことができますが、同時に他の正常細胞も殺してしまいます。例えば、ガン治療によくある下痢や脱毛は、腸や皮膚の正常細胞が破壊されることによるものです。

ガン治療をはばむもう一つの原因は、ガンが単純な一種類の病気ではないということです。ガンには100種類以上もの異なった型があります。共通の特徴として、いかなる制約も受けずに増殖し続ける能力と、全く異なる組織に侵入してそこに住み着く傾向を持つことがあげられます。しかしその原因は、何百もの異なる遺伝子に起こった多種多様な変化なのです。

ガンは正常な細胞の染色体に異常が生じてできる。

研究者たちはこの20年間に、細胞をガン化させる分子レベルの機構について多くのことを明らかにしてきました。そこから、ガン細胞が正常細胞とどう違うのかといったことがわかりはじめ、新たなガン治療への道が模索されています。ガンの原因となる分子レベルの変化が解明されれば、焦点を絞った治療法、つまり 「まわりの正常細胞を傷つけずにガン細胞だけを破壊する方法」を考え出すことが可能になると思われます。

ガンが正常な細胞から生じることは、1900年代の初めにはすでに広く認められていました。更に1914年には、ドイツの生物学者セオドア・ボベリーが、 ガン細胞が正常細胞に由来するもので、その染色体中の「正常ならば細胞分裂を抑制するはずの部分」が何らかの理由で失われているという説を発表しました。 今では、多くのガン細胞が細胞分裂のブレーキになる「ガン抑制遺伝子」を失っていることが明らかに なっています。正常細胞では、DNA(細胞の設計図、デオキシリボ核酸)に傷がないかどうかのチェックが完了するまでの間、ガン抑制遺伝子によって分裂が おさえられます。そこで異常の見つかった場合には、その傷が修復されるまで更に延長して分裂が停止されます。しかしガン細胞では、ガン抑制遺伝子が失われていたり、その一部が変異することによって正常に機能しなくなっています。ガン抑制遺伝子を失った細胞は、元の正常な細胞に比べて速いサイクルで分裂を繰り返すようになってしまいます。

まず変異細胞が異常増殖し良性腫瘍を作る。

ガン抑制遺伝子の欠損や変異は、ガンに至る道のりのほんの一段階に過ぎません。正常な細胞を致命的なガン細胞に変化させるには、複数の遺伝子変異が必要です。

多くのガン細胞では、細胞分裂を抑制するブレーキ機能がはずれただけでなく、分裂を絶えず促進させるようなアクセル機能も働いています。細胞分裂を促進させる「ガン遺伝子」と呼ばれる遺伝子が異常に活性化されているのです。

しかし、それでも「ガン」の原因としてはまだ不十分です。細胞が分裂を繰り返せば小さな腫瘍はできますが、せいぜい直径1~2㎜までにしかなりません。それ以上成長し続けるには、細胞集団に栄養を補給するための血管が必要になります。血管の伸長は「血管新生」あるいは「血管形成」 と呼ばれます。一般に血管新生は妊娠時に胚が形成される時期のみに見られる現象です。しかしガン細胞では、胚形成で働いた血管新生遺伝子が何らかの方法で再び活性化され、機能し続けます。こうした血管新生は通常の成人では見られないので、ガン治療の標的になり得るという一面も持っています。

血管新生が始まった段階での腫瘍は、まだ良性の場合もあります。良性腫瘍は外部と隔絶され、一カ所に閉じこめられています。この段階の腫瘍は外科的に取り除くことが可能で、合併症もほとんどありません。しかしさらなる遺伝子変異によって、新生した血管を通じて腫瘍細胞が広がりはじめると、腫瘍は悪性になります。悪性腫瘍こそがガンですが、このガン細胞では何らかの方法で「腫瘍を一カ所に留めておくイカリ」を引き上げてしまう遺伝子が活性化されています。

新生血管を通じて転移を始めると悪性化する。

ガンは大きく「肉腫」と「癌腫」に分けることができます。どちらに分類されるかは、はじめに反乱を起こした細胞に由来します。それが結合組織や筋肉由来であれば肉腫に、臓器の表面をおおう上皮細胞由来であれば癌腫に分類されます。ヒポクラテスは、当時よくみられた悪性の腫瘍に、ギリシア語でカニを意味する 「カルキーノス:karkinos」という名前をつけました。乳房にできた「ガン」からのびる血管の様子が、カニの足に似ていたからです。ヒトの「ガン」 のおよそ90%が癌腫です。その理由は、上皮細胞が成人になっても盛んに分裂を続けるからだと考えられます。加えて、上皮細胞は発ガンにつながりやすい物理的あるいは化学的な刺激にさらされやすいこともあげられます。

正真正銘の「ガン」になるには「無制限に細胞分裂する能力」、「血管を新生する能力」、「新しい組織に転移する能力」 といった新しい力が必要です。そのためには少なくとも3~4回、一般的には7~20回もの遺伝子変異が細胞に加わらなくてはなりません。こうした「ガン化するための変異」が蓄積するには時間がかかります。年をとると「ガン」になりやすいのはそのためです。いくつかの特殊な小児ガンを除くと、ヒトに腫瘍ができ、その腫瘍が転移するほどの悪性になるには何十年もかかります。喫煙者が肺ガンになるのは、たばこを10年から20年も吸い続けた後です。また、広島や長崎で白血病の患者が増え始めたのは、原子爆弾が投下されて5年たってからでした。

ガン細胞はテロメラーゼ酵素を使って、細胞の分裂時計を巻き戻す。

正常なヒトの細胞は、培養すると5から60回分裂して成長が止まります。正常細胞には寿命があるのです。しかし、ガン細胞には寿命はありません。培養すると永久に分裂し続けることができます。現在、世界中の研究者が「ヒーラ(Hela)細胞」と呼ばれる ヒトのガン細胞を使って研究を行っています。これは1951年にヘンリエッタ・ラックスという患者から採取されたガン細胞です。ラックス本人はとっくに亡くなっていますが、彼女のガン細胞は約50年たった今でも分裂し続けています。 ガン細胞が不死化する鍵は、「テロメラーゼ」という酵素がにぎっています。ヒトの場合、染色体の末端部分は「TTAGGG」というDNAの繰り返し配列によって保護されています。この繰り返し配列は「テロメア」と呼ばれま す。テロメラーゼはテロメアを合成し、伸長する働きを持ちます。正常細胞にはテロメラーゼがほとんどないため、テロメアは分裂のたびに短くなります。半分程度短くなると、細胞分裂は停止して細胞は死に向かいます。すり減ったテロメアは不安定で、染色体の切断や他の染色体と融合を引き起こすことがあり、そうなると細胞は生きていくことができないのです。しかし、ガン細胞の多くはテロメラーゼを持つことによって死を回避しています。テロメアが短くなると、テロメラーゼが活性化され、再びテロメアが伸長されるのです。

アメリカの研究者カルビン・ハーレイがベンチャー企業のジェロン社を設立した目的の一つは、テロメラーゼを不活性化してガン細胞の分裂能力を抑える薬を開発することでした。まだ実現には至っていませんが、テロメラーゼ阻害剤は正常細胞に影響を与えず、さまざまな種類のガンの成長を妨げる可能性を秘めていると期待されています。

腫瘍が大きくなるには新しい血管が必要である。

すでに述べたように、腫瘍が大きくなるときには、ガン細胞に酸素や栄養を運ぶための血管を引き込む必要があります。血管を腫瘍の中に引き込めなければ、腫瘍中のガン細胞は酸素不足で窒息するか、栄養不足で死んでしまうからです。そのためガン細胞の多くは、血管新生をうながすための因子を生産します。なかには、まわりの細胞に働きかけて血管新生因子を分泌させるものもあります。

このような因子として、血管内皮増殖因子や、塩基性繊維芽細胞増殖因子などがあげられます。いずれも、新しくできた血管が腫瘍へ栄養補給するのを助け、ガン細胞が確実に分裂し続けることができるように働きます。一方、新しくできた血管は、転移する能力を獲得したガン細胞にとって、絶好の抜け道にもなりま す。

血管新生は、ほぼ完璧なガン治療の標的になります。腫瘍が新しい血管を内部に引き込むのを妨げれば、 酸素や栄養の補給が断たれるので、ガンの息の根を止めることができると考えられます。「すべてのガンで」とは言えませんが、ほとんどの「ガン」が生き続けて成長できるのは、血管新生という強い味方のおかげです。妊娠中に胚が成長するときなどの例外を除いて、普通の成人で血管新生は起こりません。そのため、 血管新生にねらいをつけて、それを妨げる治療法が実現すれば、患者に害を及ぼさずにガンだけを破壊できるはずです。現在、血管新生阻害剤の開発が急ピッチで進められています。

一次腫瘍は転移したガン細胞の血管新生を阻害する。

「血管新生を妨げる因子(血管新生阻害因子)」の効果は、腫瘍のできやすいマウスで調べると顕著です。1998年、ジェームス・ワトソンは「血管新生阻害剤はガンの治療薬になるだろう」と語っています。そのときの様子はニューヨークタイムズ紙の一面を飾りました。

マウスの実験においては、血管新生阻害因子が新たな腫瘍の成長をくい止め、すでにできている腫瘍を縮小させることが確かめられています。直感的にはおかしいと感じるかもしれませんが、血管新生阻害因子の中には「アンジオスタチン」や「エンドスタチン」といった、ガンの腫瘍自身によって作られているものもあ ります。

これらの血管新生阻害因子を分泌するのは、初めにできた一次腫瘍です。大きな一次腫瘍は、分泌した阻害因子によって転移した二次腫瘍の成長を押さえ込むのです。「共食い」とでもいうべきガンの成長過程では、どの腫瘍も自分のことしか考えていないのでしょう。たとえ他の腫瘍を犠牲にしたとしても、利用できる 栄養を独り占めにして自分の腫瘍を大きくすれば、生き延びるチャンスも多くなるというわけです。

外科手術で一次腫瘍を取り除くと、突然二次腫瘍が現れることが多いのは、一次腫瘍が無くなったことで血管新生阻害因子の分泌が無くなったためと考えられます。

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