COPD(慢性閉塞性肺疾患)と漢方薬
その他の病気と漢方薬
私たちの肺は、寝ている時も働いている時も片時も休むことなく呼吸運動を行っています。これによって体のすべての臓器が機能を営むに必要な酸素が与えられ、他方、不要な二酸化炭素を体の外に排出しています。肺の容積は大人で左右合わせて約5リットル。肺に出入りする空気の総量は1日1万リットルに達します。
鼻や口から吸った空気は気管、気管支、さらに細い細気管支を経てぶどうの房のように連なっている肺胞に至り、ここから再び同じルートを経て呼気として外界に排出されます。肺胞の数は大人では約3億個、これを広げてつなぎ合わせるとテニスコートに匹敵する面積となります。
COPDとは気管支、細気管支、肺胞の広い範囲に治りにくい慢性の炎症が起こり、空気の出し入れが障害され(気流障害)、肺胞が壊れ、酸素の取り入れ、二酸化炭素の排出(ガス交換)が障害される病気です。前者は従来、慢性気管支炎、後者は肺気腫(はいきしゅ)とそれぞれ分けて呼ばれてきました。しかし、発症の原因は両方に共通であり、また治療法も区別する必要がないことから近年では一括して「COPD」と簡単に呼ばれるようになりました。これに対応する日本語の名称は「慢性閉塞性肺疾患」です。
主な症状は咳(せき)、痰(たん)、息切れで、「寒くなってからいつまでも咳、痰が続く」「かぜがなかなかすっきりしない」「冷たい空気をすったら喘鳴(ぜんめい)、息切れが強くなってきた」などがCOPDにはみられます。しかし、これらの多くは喫煙者にはありがちな症状であるし、息切れなどは年のせいと思いがちです。年をとっても肺や心臓に異常がなければ日常の生活で不自由になるような息切れが出ることはありません。同年齢者の人たちと駅の階段や坂道を登った時に一人だけ遅れていくことはありませんか。これまでになかったような息切れは病気のせいと考えて下さい。同年齢の人たちと比較した時が問題なのです。タバコを吸う人の中には、咳ばらいをしながら吸っている人、咳き込んでいる人を見かけることがあります。これもCOPDの症状です。健康な人では咳や痰がまったく出ないのが原則です。
COPDは別名「タバコ病」と呼ばれるように、20年間以上にわたる大量の喫煙がその最大の原因です。COPDの患者さんの95%に喫煙歴がありますが、他方、喫煙者の全体からみると約15%がCOPDになるといわれています。
治療としては、西洋医学では症状の軽減、増悪を防ぐため気道を広げ呼吸をしやすくする気管支拡張薬や咳、痰を除く去痰薬を用います。
漢方医学では咳、痰、呼吸困難、喘鳴(ぜんめい)などを軽減させ、さらに生体の抵抗力を高め全身状態を改善させる方剤を用います。
このところ注目されているのが疲労しやすく腹壁の弾力が乏しい虚証の人に用いる「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」。最近の研究で消化吸収機能、全身の栄養状態、炎症病態を改善させるほか、長期間の服用で風邪に罹りにくくなることがわかっています。
症状を軽減させるために「清肺湯(せいはいとう)」、「小青竜湯(しょうせいりゅうとう)」、「柴陥湯(さいかんとう)」、「柴朴湯(さいぼくとう)」、「麦門冬湯(ばくもんどうとう)」、「苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)」なども用いられます。
食養生としてはCOPDになると、息切れのため動く機会が減り、食欲も低下しがちになります。しかし、食事は健康的な生活を送るための基本です。しっかり食べて十分な栄養をとらないでいると、体力や免疫力が低下していきます。好き嫌いをせず、大豆や乳製品などのたんぱく質を欠かさずに、野菜や果物をたっぷりと摂りましょう。苦しくて一度にたくさん食べられないときは、無理をする必要はありません。バランスが取れれば、食事回数を1日に5回、6回と増やしてもかまいません。食材としてはギンナン、杏仁、ごぼう、れんこん、ゆり根などがおすすめです。