暑気あたり・夏バテ・夏かぜの漢方
季節の病気と漢方薬
「暑気あたり」は夏の気である「暑」に中(あ)てられることをいい、漢方医学を感じられる言葉です。具体的には夏の暑さのために体調を崩すことを指します。
また「夏バテ」は、暑さで疲れ、動作や思考力が鈍くなることとされています。
これらの要因としては、外的には日本の高温・多湿な環境、内的には生活習慣(冷房や冷飲食)や体質(水分代謝が悪いタイプ)などが考えられます。熱の放散が上手く行われないために、症状としては不眠・ほてり・イライラや倦怠感・食欲不振などが現れます。
今回は、夏の症状にお勧めの漢方薬をご紹介します。
【夏の消耗】
夏季の発汗量は、腰を掛けての軽作業であっても、一日に1.5~2.0ℓ、暑い場所での作業では最大で一日10.0~15.0ℓになることもあるそうです。発汗は気と水(津液)の両方を消耗します。そのため、スポーツやレジャー、暑い場所での作業の前には水分補給に加えて、「生脈散(しょうみゃくさん)」や「清暑益気湯(せいしょえっきとう)」なと、気と水を保たせる処方がお勧めです。
一方、顔のほてりや口喝などの「熱」の症状があれば、清熱と滋潤に優れた「竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう)」などもおすすめです。また、水分を取ってもなかなか吸収されない方には「五苓散(ごれいさん)」も良いでしょう。
津液の消耗は少ないが、倦怠感が強く、食欲も出ない、何もやる気が起きないなど、気の消耗が顕著な場合には「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」や「香砂六君子湯(こうしゃりっくんしとう)」など、脾胃(胃腸)を立て直す漢方薬が適しています。
【夏の不眠】
不眠は夏バテを引き起こす要因の一つです。特に夏は五臓の「心(しん)」が盛んになる季節で、不眠になりやすいと考えられます。イライラして寝つきが悪い場合は「心」の高ぶりを鎮める黄連が配合された「黄連解毒湯(おうれんげどくとう)」や「黄連温胆湯(おうれんうんたんとう)」などが良いでしょう。
【夏の冷え】
貝原益軒の『養生訓』には、夏の養生の要点は冷やさないことであると書かれています。しかし現代の日本では冷房を使用しないわけにはいかず、冷飲食をやめることも難しいと思います。夏の冷えに漢方薬を活用しましょう。
手足の冷えには「五積散(ごしゃくさん)」や「弓帰調血飲第一加減(きゅうちょうけついんだいいちかげん)」、お腹の冷えには「人参湯(にんじんとう)」、下痢・軟便など胃腸風邪様の症状には「霍香正気散(かっこうしょうきさん)」など、症状に合わせてご服用ください。
【夏場の風邪・咳】
夏場は冬と比べると風邪に対する意識が低下するかもしれません。しかし、夏場は睡眠不足や暑さによって通常よりも体力や免疫力が落ちた状態になっており、冬とは異なる風邪のリスクがあります。夏場の風邪は、腹痛や下痢などの消化器症状が主体となるものや、寒気を伴わない発熱や上気道の炎症(のどが赤く腫れて痛む、強い咳込み)が主体となるものが代表的です。漢方薬としてはのどの痛み、発熱が主体の夏風邪には「金羚感冒散(きんれいかんぼうさん)・錠」、強い咳込みのある夏風邪には「竹葉石膏湯(ちくようせっこうとう)」がよいでしょう。