秋の乾燥に生脈散(しょうみゃくさん)
季節の病気と漢方薬
秋の乾燥に生脈散(しょうみゃくさん)
秋は乾燥することにより気道が乾燥し、乾いた咳などの呼吸器症状に悩まされることが多くなります。このようなケースに生脈散がお勧めです。
生脈散は夏場に用いられる印象が強い処方です。人参(にんじん)・麦門冬(ばくもんどう)・五味子(ごみし)の3生薬から構成され、気と陰(陰液・体に必要な潤いのこと)を補う働きに優れているので、暑さや発汗などで気や陰を消耗しやすい夏場に適しています。しかし、生脈散は夏だけの処方ではありません。秋の乾燥症状は、陰虚(陰:体の潤いの不足)と考えることができるので、陰を補う生脈散は、秋にもその効果を発揮できます。
構成生薬である人参・麦門冬・五味子は全て滋潤性があり、全体として陰を補う作用に優れています。特に麦門冬は肺陰(肺の潤い)を補うのに優れており、五味子は肺を収斂(細胞間を隙間なく埋めること)することで、肺陰を漏れないようにする働きがあります。
このようなことから、生脈散は陰虚の中でも特に肺陰虚の症状(気道の乾燥、乾性の咳など)に優れた効果を発揮します。
また、生脈散に関する最も古い記載がある張元素の「医学啓源」には、「肺中の元気不足を補う」と書かれており、肺陰だけでなく肺気も補うことを示唆しています。
肺陰虚の処方としては麦門冬湯(ばくもんどうとう)が大変有名です。以下にこの麦門冬湯と比べた際の生脈散の特徴を述べます。
①構成がシンプル
3生薬で構成されたシンプルな処方なので、切れ味良く肺陰を補うことができます。
②甘草(かんぞう)を配合していない
甘草を配合していないので、まれに発症する甘草の副作用(偽アルデステロン症:排尿障害、むくみなど)の心配がなく使用でき、長期に服用する場合も安心です。また、他の処方と併用しやすいというメリットもあります。
③止咳作用は緩和だが、乾燥性の慢性咳には特異的に効果を発揮します。また、心筋の保護作用があるので、心臓虚弱者の慢性の咳にも安心して使用できます。
このように、麦門冬湯と比べても肺陰虚の処方として遜色のない効果を持ち、より安全に服用しやすい側面も持っています。秋の乾燥症状にも、是非ご服用ください。